野球部退部を思い留まらせた監督の"心を震わせた言葉"

 とはいえこれまでの水竹の野球人生は決して順風満帆なわけではなかった。

「練習が辛くて、みんなから後れを取ってしまって……。高校2年の冬くらいに『野球を辞めたい』と家族と監督に話をしたことがあります」

 水竹の話を聞いた家族と吉田監督は、ともに野球を続けることを勧めたという。

「吉田監督と話をした時に、『お前もチームの一員なんだ』と言われて嬉しかったです。その言葉が支えになりましたし、野球を続ける気持ちにもなりました。今となれば続けてきてよかったと思っています。野球を続けていなければ、あの春の本塁打もなかったので。監督には本当に感謝しています」

 吉田監督は「水竹は雰囲気を変える力がある」と語る。

「やっぱり彼が打つとチームが盛り上がるんですよ。そういう力を持っている選手です。練習でも同じで、彼一人いるだけでチームの雰囲気が変わる。水竹が打つとチームが勢いに乗る。ムード―メーカ的な存在です」

学校を「野球部から立て直す」

 吉田監督は水竹に野球の技術面だけでなく、生活面でもしっかり指導をおこなった。

「チームとして挨拶の徹底をしていました。『野球部がいい姿を見せないと学校も変わらない、自分たちも変わらない』と教えられました」(水竹)

 じつは吉田監督が着任した当初、行徳の野球部員は0人だった。

「自分が得意な野球で学校に貢献したかったんです。『野球部から学校を立て直したい』という思いがありました。多くの中学校に何度も挨拶に通って選手に声を掛けるところからスタートしました」

 監督の尽力によって2年目には8人を集め、中学時代野球部だった他の部の生徒に力を借りながら公式戦出場をはたした。その後は徐々に部員は増え、2022年には秋季県大会でベスト16進出を果たすなど、着実に行徳野球部は力をつけている。

「先輩たちが積み重ねてきたものが力になっています。最初に入ってきてくれた8人も最後は4人になってしまいましたけど、その子たちが基礎を築いてくれた。その結果が2022年の好成績につながったと思っています」(吉田監督)

「こんにちは!」

 グラウンドに来客が来ると野球部員は一斉に立ち止まり、挨拶を行う。選手・マネージャー計15人全員が来客一人一人に深々とお辞儀することが徹底されているのだ。凡事徹底――――。吉田監督の思いはしっかり伝わっている。

規格外スラッガー、卒業後は……

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